音の話をする前に、Magico QシリーズおよびQ5について軽く触れておきます。
技術的な詳細情報はメーカーないし輸入代理店の公式HPに譲るなりして、当方の所感を述べるなら:
Magicoのスピーカーは、機種を問わず、広大な空間に、熱気や生気に満ちた音像を散りばめる。
Qシリーズは、金属筐体がもたらすタイトな低音、フラットな帯域バランス、ダイナミックレンジの広さが魅力的。
技術情報や細部の仕様についてはエレクトリの公式資料に詳しいです。資料上のデータからも、低音域の深さや立ち下がりの速さと、それらがもたらす滲まない中〜高音の精緻さは想像できます。
fig. cumulative spectral decay plots of different enclosures
公式の資料に、きちんと音を想起させるデータ(CSDグラフなど)が載っているのは嬉しいです。こんなことを言うと怒られそうですが、公式の説明資料が出音を想像するのに際して参考になるという、珍しいケースだと思います。
音の話をする前に、Magico QシリーズおよびQ5について軽く触れておきます。
全帯域にわたって音の立ち上がり&立ち下がりが非常に速く、しかも揃っています。別の言い方をするなら、特定の帯域が遅れることを極限まで避けることに成功しています。Q1やQ3も同様の強みをもちますが、可聴周波数帯域(20Hz~20kHz)のギリギリまでそのスタンスを徹底していることは、Q5の最大の魅力だと思っています。具体的には上記の図をご参照ください。
他のQシリーズにも共通ですが、Q5の高音の伸びやかさと中音〜高音の像の分離は、2024現在においてもずば抜けています。まぁそのあたりの話は、たとえばQ1やQ3において語られ尽くしているし、セッティング次第でQ1, Q3, Q5, Q7のいずれにおいても達成できるので、Q5のレビューで特筆すべき事項ではないかもしれません。
なお、出音は暖色寄りです。例えば、WilsonやB&Wのスピーカーを真空管アンプと組み合わせた時のような、熱気や生気に溢れた中高音がデフォルトで出ます。これにより、ヴォーカルやアコースティックの再現を得意とします。
Q5が真価を発揮した際の低音は、地の底から這い上がってくるような不気味さや凄みが魅力です。YGの大型機を彷彿させるとも。金属筐体を用いずにこれをやろうと、筐体が大型化し、求められるエアボリュームも大きくなるよう(な傾向が見受けられるのと、価格も桁違い)なので、その点でQ5やYG Sonjaあたりは優秀かつ日本の住宅事情との親和性も良いように思っています。
なぜかQ5は「鳴らしづらいスピーカー」「難しいスピーカー」というレッテルを貼られがちです(苦笑
たしかにQ5の能率は、Magicoの他のトールボーイと比して約2dbほど低いです。しかし、昨今のアンプでQ5を鳴らしたとき、能率の低さゆえに音量が取れなくて云々というのは超のつくレアケースです。勿論、たとえば出力が10WのFirst Wattのアンプで鳴らしたら、SPとの距離によっては十分な音量を取れないかもしれませんが、それを言ったら同じMagicoのQ3だって厳しいだろうし、Q1やA1はQ5以上に厳しいでしょう。
となると、そもそも「鳴らしづらい」とはどういうことか、というお話になります。アンプや部屋環境によってはその能力を十全に引き出せない、という表現もできるかもしれません。が、そもそも、ある程度のランクのトールボーイになれば、スピーカーからの出音のクオリティは素直にアンプの力量を反映しますので、上は青天井です。たとえば、国内における「究極のアンプ」の代名詞的存在であるGOLDMUNDのTELOS 5000を思い浮かべてみてください。コイツでYG SonjaやMagicoのQ3ないしQ5を鳴らしたとして、TELOS 5000の、重低音の深淵まで克明に描き出し、いかな帯域の僅かなもたつきも許さないような徹底した音作りを真似できるアンプがどれくらいあるでしょうか?余談ですが、5000ナンバーの頃は税込で4000万円ほどだったTELOSも、現行の8800ナンバーは軽く億超えです。
本題ですが、仮にTELOS 5000でドライブしたSonjaやQシリーズは「鳴っている」と仮定します。ではたとえば、それと比べてスペックで劣るTELOS 2500はSonjaやQシリーズを「ちゃんと鳴らせない」のでしょうか?確かに「TELOS 5000よりは鳴らせない」かもしれませんが、個人的には「鳴っていない」と決め付けるのは早計です。もっと言えば、TELOS 5000を知らなければ、TELOS 2500でも不満は出づらいのではないでしょうか?尚、これはFM AcousticsのFM711やSpectralのDMA-400RSについても言えることでしょう。まとめると「音量を取りやすい」「音量を取りづらい」ならばスピーカーの能率からある程度は見積もれるとしても、「鳴っている」「鳴っていない」は主観が入る話だし、まして「究極のアンプ」でなければ出音のどこかにネガが残るのは、Q5に限ったことではないでしょう。
百歩譲ってQ5が「鳴らしづらい」と仮定しましょう。当方の認識では、Q3やQ5が現行機種だった頃に、Q5が「鳴らしづらい」スピーカーとして語られる場合、枕詞に「Q3と比べて」が付いていた気がするのです。が、いつの間にか枕詞がどこかに行ってしまい「鳴らしづらい」という風評が一人歩きがしてしまっている感は否めません。
あくまで感覚的にではあります、、が「Q3と比べて」Q5が鳴らしづらいスピーカーだというなら、それは肯定します。そもそもQ3というスピーカーは、8畳間でも鳴らせて、しかも歯切れの良い鳴りっぷりがポップス(含アニソン)やロックと好相性です。ゆえに日本のオーディオ事情を念頭に置くなら、Q3は紛れもなく2010年代を代表する傑作機です。思うに、Q3と同等の高い評価を得ているスピーカーがあるとすればたとえば、絶対的な出音のレベルで比類がなかったYG Sonja XV(含Jr.)などではないでしょうか?正直、そういうものと比較して云々というのは、大抵のスピーカーにとって酷です。とりわけQ5の低音は「Q3と比べると」精緻で深いが「地味」だし、なまじQ5はQ3に外見やサイズ感が近いため(Q7などと比べると)Q3の比較対象にされやすかったように思います。
当方の所感としては、Q5は別に鳴らしづらくないです(※)。至って普通です。事実、多くのプリメインでも朗々と鳴らせているし、もっと言えば定価で2桁違うmarantz MODEL M1やDenon Home Ampですら、捨てたもんじゃない音で鳴らせます(リンク先に動画あり)。唯一言えることは「YGの大型機みたいな低音」を出そうとするとアンプを選ぶということです。ただ、それはQ3でも同じではないかと愚考します。
※最近のフロア型だと、B&W 800D、Avalon Diamond、Wilson MAXX3あたりは所有歴がある。あとは大型機かは微妙だが、Wilson Sophia Series 1やPiega C8など。