筆者は、SpectralとMITの相性は良いと考える一方で、他の選択肢を排除することについては懐疑的です。
ラインケーブルに関して言えば、国内のユーザーやショップでも、SpectralのUltralinearやMITのケーブル以外を使って音楽を楽しんでいる方はたくさんいます。そういった方々が、MITでないがゆえのトラブルに見舞われたという話も聞かないですし、出音も好評だったりします。
電源ケーブルについては、さらに必須ではないです。たとえば筆者の場合、SpectralのセパレートでAvalon Diamondを鳴らしていた際は、ラインケーブルやSPケーブルはMITのものを用いていましたが、電源ケーブルはMITにこだわらず、色々と遊んでいました。
ただ、Spectral/MITで固めた方が良い鳴り方をするケースもあります。たとえば筆者にとっては、Magico Q5をドライブするケースがそうです。というのも、かつての所有機であるAvalon Diamondの朗々とした中音の鳴りっぷりが理想像としてあったので、それを実現するために、電源ケーブルもMITで統一するのが望ましいと判断し、Oracle Z-Cord Reference FPを導入するに至りました。結果としては、Q5の凄みのある低音と、Avalonを彷彿させるような朗々とした中音と高音の鳴りっぷりを両立できたので、試みとして成功だったと思っています。
公式等の資料を参考に、私見を抜きにしてまとめています。
1980年代初頭、Spectralはすでに超高速・広帯域のプリアンプやパワーアンプを開発していましたが、それらの性能を最大限に引き出せるケーブルが存在していませんでした。極めて高いトランジェント(過渡応答)精度を維持するためには、単に信号を伝送するだけでなく、高周波の安定性を確保するアクティブなケーブルが必要だったのです。
そこでSpectralは、当時Monster Cableのコンサルタントを務めていたBruce Brissonに協力を依頼。この協力関係が、後に彼がMITを創業するきっかけとなります。Bruce Brissonはネットワーク回路を内蔵したケーブル(周波数特性を調整できる設計)を開発。これにより、Spectralの機器が持つ驚異的な応答速度と正確な信号再現を可能にしました。
Spectralは創業当初から、すべての要素が調和して初めて究極の音が生まれるというシステム統合の哲学を持っていました。単体機器だけでなく、ケーブルや電源、接地方法まで含めて一体的に最適化すべきだと考えていたのです。この思想を実現するためSpectralは、MITと共に、Spectral専用にチューニングされた位相補正ケーブル(こんにちにおいてUltralinearの名を冠する各種インターコネクトおよびスピーカーケーブル)を共同開発しました。その技術的背景や必要性については、下の「技術の話」にまとめます。
この密接な関係性は、単なる「推奨ケーブル」という枠を超え、Spectral製品の保証条件にまで関わるようになります。MITケーブル以外を使用した場合、アンプの保証が無効になることもありました。理由は、他のケーブルが高周波の不安定動作や発振の原因となりうるためです。実際にユーザーからも「Spectralの機器は非常に広帯域であり、適切なケーブルがなければ簡単に超音波発振する」との声が多数見られました。
Spectral AudioとMIT Cablesの関係は、単なるパートナーシップではなく、根本的に技術的な必然性に基づいたものでした。Spectralの極端に広帯域かつ高精度な設計を最大限に活かすために、MITのネットワークケーブルは不可欠な存在でした。この協業は、単なる「高音質」ではなく、精密機器としての完全なシステム統合を目指す象徴ともいえる関係です。
出典:
1980年代、すでにSpectralのアンプやプリアンプはMHz領域にまで到達する超広帯域設計でした。これはこれは、非常に速い立ち上がりや正確な過渡応答を実現するための設計でしたが、適切なケーブルなしでは発振や高周波の不安定動作を引き起こす恐れがありました。特にSpectralのパワーアンプは内部にローパスフィルターを持たない設計が多く、外部のケーブルが「安定化回路」の役割を果たす必要がありました。もちろん、極めて高いトランジェント(過渡応答)精度を維持できることも必須でした。
そこでSpectralは、当時Monster Cableのコンサルタントを務めていたBruce Brissonに協力を依頼。この協力関係が、後に彼がMITを創業するきっかけとなります。Bruce Brissonはネットワーク回路を内蔵したケーブル(高いトランジェント精度を維持しつつローパスフィルターとしての役割も果たす設計)を開発。これにより、Spectralの機器が持つポテンシャルが解放され、驚異的な応答速度と正確な信号再現が実現されました。
Spectralは、MITケーブルを使用することで初めて、設計通りの周波数特性、位相整合、安定性が得られるとしています。実際、Spectralの正規販売店やユーザーガイドでも、MITケーブルの使用が「前提条件」であることが明言されています。これは、他社ケーブルを使用することによってアンプが発振するリスクをコントロールするためです。
(ここからは筆者の意見ですが)国内でのSpectralユーザーの反応を見る限り、MITのケーブルを使用しないことによるSpectralのアンプの発振や、それに伴う故障などの影響は、極めて限定されます。理屈の上では、Spectralの完全統合思想は正しいのでしょうが、実運用上は、MITを代替する選択肢も多いように思われます。例えば、筆者の知るハイエンダーの方で、スピーカーケーブルにCrystal Cableをご使用だった方がいますが、何ら問題なく利用できていたようです。
あくまで個人的な見解ですが、SpectralのアンプとMITのケーブルは、音の観点では相性抜群です。これは、Spectralの音作りにおける強みである:
音のスピード&リズム
広大でフラットな周波数レンジ
熱気・生気・生命感を宿した出音
広大な音場
を、MITの音作りにおける強みである:
周波数全体でのエネルギー伝達の精度向上
ダンピングの改善
ローノイズ
が補強するからです。
また、もう少し言えば、Spectralは音場表現重視のアンプで、音像の力感や実在感については改善の余地があるアンプなのですが、それを見事にやってのけるのがMITです。付け加えるなら、音の立ち上がりが極めて速いSpectralのアンプと、音の立ち下げ(ウーファーの制動)に長けるMITのケーブルは、音のスピード&リズムの観点からして、よき相棒だと言えるでしょう。
さらに「広大でフラットな周波数レンジ」ないし「熱気・生気・生命感を宿した出音」は、SpectralのアンプのみならずMITの上位ラインも備えている資質なので、そこもSpectralとの相乗効果が狙えます。
ただ、先ほども申し上げた通り、Spectralのアンプを用いるにあたっての選択肢はMITのみではありません。ここでは、主に電源ケーブルについて、当方がSpectralに試した「MIT以外」の選択肢について語ってみます:
ODIN(Nordost):最高クラスのサウンドステージの広がりと驚異的なスピード&リズムを備えたケーブル。Spectralらしさを極限まで高めようとするなら、選択肢に入り得ます。もっともその場合は、ODIN 2がより適役でしょう。
Leviathan(Stage III Concepts):ODINに匹敵するサウンドステージの広さと、ODINを上回る広大かつフラットな周波数レンジ、さらには異次元のS/Nを実現する怪物。音はややクールな方向に寄りますが、実在感があって眩い音像が、漆黒の空間に散りばめられる様相は圧巻です。
Flow Master Reference(Argento Audio):低音の深度と分解能が尋常ではないケーブル。遥か彼方の20Hz付近まで、克明さを保って落とす感覚は圧巻です。元々、Spectralのアンプも低域方向へのレンジはものすごく広いので、FMRと組み合わせた場合の低音の凄みは凄まじいです。