現在、筆者のメインシステムとして愛用しているSpectralですが、世代やグレードをまたいで共通する、音作りにおける強みは:
音のスピード&リズム
広大でフラットな周波数レンジ
熱気・生気・生命感を宿した出音
広大な音場
です。この4要素は、筆者がアンプに求めていた要素そのものであり、また、アンプ単体でこれらを担保するものは稀であるため、Spectralとの出会いは劇的だったと言えます。
筆者は都合、ここ20年ほどに渡り、Spectralのアンプを使い続けています。大まかには3代にわたって使っておりますので、流れでレビューしてみたいと思います。
最初に導入したのは、1990年代に発売されたDMA-180とDMC-20をサブ機として、でした。
このセパレートアンプは、上述したSpectralの強みを見事に体現したアンプでした。当時、このアンプでWilson AudioのSophiaをドライブした際、キンキンしがちなWilsonのツィーターが熱気と生気に満ち溢れた音で鳴り始め、驚いたことを覚えています。ただ、その音のリアリティや生っぽさとは裏腹に、出音の鮮烈さや怜悧冷徹さを顕示するタイプではなかったため、一聴した段階では性能に疑問を持ちました。しかし、Wilson Sophiaの制動が難しい低音をハイスピードで立ち上げ&立ち下げ、かつ超低域の十分な分解能を確認した時点で、その疑問は払拭されました。そんな経緯もあり、DMA-180 & DMC-20については、一聴して「なんじゃこりゃあ!怪物じみているな...」という類のアンプというよりは、使ってゆくうちに、その真価が徐々に見えてくるタイプのアンプかな、と思った次第でした。余談ですが、これは他のSpectralのアンプについても言えると感じます。
DMA-180 & DMC-20は、導入後もあくまでサブ機として運用するに留まりましたが、その秀逸さゆえに、後にDMA-360 Series2やDMC-30Sを導入するモチベーションになり、それらを導入した後も、最近までサブとしてシステムを下支えしていいました。余談ですが、DMC-20については、Series 2のフォノイコライザーの完成度が高く、傑作機と言われますが、当方はそこまでアナログに凝っていないので、所有していません。
次いで導入したDMA-360 Series2とDMC-30Sは、今に至るSpectralのリファレンスとして、ほぼ完成に近い音を奏でるアンプでした。この時期からSpectralが拙宅のメインとなりました。
とりわけDMA-360 Series 2モノラルパワーアンプは「広大でフラットな周波数レンジ」の観点においては、DMA-180から大いに磨きがかかり、低音の中でも低い音の解像度については、多大な飛躍を遂げました。今でも、仮にDMA-360 Series 2ほどにワイドレンジなアンプを探すとなると、少なくとも1000万円以上の予算をもって臨まなければならないでしょう。ここに、音のスピード&リズム、生気や生命感を宿した出音、広大な音場などの要素も加味するなら、今なおDMA-360 Series 2に並びうる選択肢は、いくつも無いでしょう。
なお、Spectralに限らず、この時期は、多くのアンプメーカーが、コストを惜しまず、リファレンスとしての一つの完成形を世に送り出した時期だったと記憶しています。GOLDMUNDのTELOL-5000やConstellation AudioのHERCULESがその代表格だと思っています。
その後、DMA-360 Series2とDMC-30Sにかわって導入したのが、現在も所有しているDMA-400RSとDMC-30SS Series 2です。音についてはこちらで詳述していますが、ひとまずスルーで問題ありません。
音質的には、サウンドステージがやや広がった点と、S/Nが若干アップしましたが、DMA-180からDMA-360S2にアップグレードした時のような劇的な感覚はなかったです。というより、DMA-360 Series 2は音質的に行くところまで行き着いてしまった感がありました。むしろ、DMA-400RSに関して特筆すべき点があるとしたら、国内の正規代理店が正式に取り扱ったということと、天板に廃熱口が穿たれ、排熱の性能が大いに向上したことだと思われます。(DMA-360 Series 2に関しては、国内での取り扱いがなかったため個人輸入した経緯があります。)
Magico Q5をドライブするにあたり、音質的に申し分のないDMA-400RSとDMC 30SS Series 2(with MIT cables)ですが、1つ問題があります。それは、アンプのシステムとして完成されてしまっており、すなわち「音楽鑑賞」をするには最高ですが、頂を目指す過程での試行錯誤や紆余曲折を楽しむ「オーディオ趣味」としては成立しないということです。問いとしては、音質のことをあれこれ考えずに音楽に没入できるようになったわけだが、それは良いことなのか?というものです。正直、オーディオ趣味的には、退屈と言えなくもありません。
余談ですが、筆者はSpectralの「MITの押し付け」に反発していた時期があり、当時、最高峰とされたOPUS(TRANSPARENT)のほか、Gryphon(Stage III Concepts)なども収集してMITと比較しましたが、少なくともSpectralのアンプと組み合わせる分には、一聴してMITの優位性が明らかでした。良し悪し云々はまぁ聴く人にもよるのでしょうが、自分はこれ以降、Spectralに用いるケーブルで悩むことができなくなったので、それはそれで退屈かも。
と、まぁ本来なら考えなくてもよいようなことも考えさせられたりしましたとさ。