プリメインアンプ以外の機器類の情報はこちら。
HEGEL H360ので音楽を聴くことは、上質で粒立ちのよいクリスタルの舞いを鑑賞することを連想させます。
どなたかが用いていた「情熱的ではないが情緒的」という表現が、当たらずしも遠からずだと感じます。たしかにH360の出音は、色気や熱っぽさをアピールするものではないです。が、無機質無味乾燥というには明るすぎるし輝かしすぎる。天体に喩えるなら青色巨星に近く、炎に喩えるなら完全燃焼の炎に近いイメージの音です。
これはHEGELのアンプに共通する話ですが、中〜高音の品位が良いです。なめらかで、耳に刺さらず、硬いものをぶつけられるような感触もないです。結果として、少なくとも拙宅では、H360で音量を上げるにあたり、高音の刺激がボトルネックはなりません。HEGELのアンプは十分な音量を取ると化けるのですが、実によくできていると感じます。
重低音を立ち下げる能力が非常に高く、低音が膨らんだな、もたつかないかな大丈夫かな?と思った次の瞬間には、あれ?どこいったというような感覚になります。この性質は、上述の高音うんぬんと合わせ、音量を上げやすい両輪になっていると感じます。なお、スペック表にはダンピングファクター4000オーバーとありますが、関係があるのかないのかは不明です。
寒色系の出音でありながら、広大な音場を高密度に音で満たします。筆者の経験が十分とは申しませんが、寒色系でサウンドステージが広いケースにおいては、キリキリに引き締まった音像を屹立させるタイプ(ケーブルでいうNORDOSTタイプ)か、聴者からある程度の距離を取りつつ、聴者がビジュアル的に最大量の音像を堪能できるよう、音場の際というべき面に沿って音像を敷き詰めるタイプ(ケーブルでいうSTEALTHタイプ)のいずれかが多いですが、HEGELはそのいずれでもないです。クールでありながらダイナミックな出音で、音像は柔軟性に富み、躍動的に舞います。
表現の話をしますと、音像は、手を伸ばして触れれば、事細かなニュアンスまで感じ取れそうです。度を超えて化粧っ気を排した表現がゆえに、思わず、触れることで得られる情報量が多そうだという、音を聴く人間としては的外れな期待感を抱きます。と、同時に、触れるならその前にきちんと手を洗いたいも思います。下手に指紋をつけて一音一音の輝きが損なわれることは、H360の魅力が損なわれることとほぼ同義だと思われるためです。
レビューにあたり、同価格帯のプリメインアンプ幾つかと聴き比べました。
しかし、当方がとりわけ重視しているのは marantz MODEL M1 および Spectralのセパレート(with MIT cables) との聴き比べです。
当方の中では:
・MODEL M1は、定価ベースで桁2つ違うスピーカーすら駆動し得るが、その他のこと、たとえば空間に広がりをもたせたり、音像に生気をもたせたりすることはとことんサボるアンプ。アンプ選びにおけるエントリーモデル。
・Spectralのセパレート(with MIT cables)は、駆動力はもちろん、音像の生気/熱気、音のスピード/リズム、そこに空間の広さと密度スケールが加わることによる出音のスケール感などなど、当方が重視する要素を全て満たし(現環境でMagico Q5を駆動する限りは)アンプ選びのひとつの終着点。
です。したがって両者との聴き比べは HEGEL H360 の強み/弱みを浮き彫りにすると認識しています。
以前に書いた両者の比較記事へのリンクはこちら。
H360もといHEGELのアンプは、良くも悪くもSpectralでは出ない音を出すと感じます。Spectralが暖色系、HEGELが寒色系ですから、根本的にコンセプトが違います。
価格が桁ひとつ違うので、だいたいの場合はSpectralが良いのですが、HEGELで鳴らした方がオーディオ的な快感が大きい曲もあります。たとえばfripSideさんの"sister's noise"。クールかつ疾走感を全開に、電子音の麻薬的な感じを引き出すことで化ける曲だと思っていますが、Spectralと比べると、HEGELはこういった描写を得意とします。"sister's noise"に限れば、H360でも十二分に魅力的ですが、これが現行のセパレートだったらと考えるとゾワッとします。
アコースティック主体のクラ・ジャズであれば、Spectral一択です。ロックは曲によります。EDMは、キャラクター的にはHEGELかもしれないが、H360であれば、スペックの問題でSpectral DMA-400RSが優勢な曲も多いでしょう。
当方がHEGELのオーナーになって日が浅いというのもありますが、H360のイメージはHEGELのブランドイメージに沿った音です。寒色系の出音に振り切った上で、ユーザ体験を充実させるために、工夫を凝らしているメーカーだと感じた次第です。現時点での好感度は、ものすごく高いです。
はじめてHEGELのアンプを買う人。
クールな音がお好きな人。
アンプの駆動力不足に苛まれている方。
ご自身とHEGELサウンドとの相性を見極めたい方。
ケーブルはRCAとXLRのどちらが適切かという観点ですが、HEGELは原則としてXLRで問題ないはずです。RCAは、機種や個体によっては端子や内部配線がチャチなようですが、XLRは基盤に直結されている模様につき(某ショップがチューニングしたH2など、一部の機種・個体は除く)。
お値段をx軸とした片対数グラフを描きたかっただけです。ジョークグッズの類なので、不確かですがご容赦を。