プリメインアンプ以外の機器類の情報はこちら。
生気や生命感に溢れる熱い音です。このアンプに関しては、そういう音を望むかどうかが全てでしょう。現代KRELLのプリメインという意味で、替えが効かない(とまでは言わないが極めて限られる)ので、合う方には合う、合わない方には合わない、というアンプだと思います。
Vanguardの音は、KRELLの音です。A級がスタンダードなKRELLにおいて、Class ABであるとか揶揄されることもありますが、同価格帯の他のプリメインアンプと比較した範囲では、濃厚・豊穣という観点では頭ひとつ抜けていて、まさにKRELLのアイデンティティを反映した出音です。別の言い方をすれば、サウンドステージの広がりをこのアンプに期待すべきではありません。そのかわり、もし貴方が、ステージ最前列で音楽にかぶり付きたいという願望をお持ちだとすれば、Vaungardは全力でそれに応えるでしょう。
一方で、KRELLのプリメインの中でも、キャラクターと基本性能をうまく両立したモデルで、瞬発力やドライバビリティは先代のKRELL S-300iや後継機のK-300iを凌ぐという認識です。単品でのキャラクターの強烈さ(KRELLっぷり)においては、K-300iには一歩譲りますが、それでもKRELLと言うには十分です。工業製品としてしっかりしている点も特徴的で、筐体が(熱は持つが)触れないようなレベルで熱くなったりオーバーヒートしたりという心配もありません。
付け加えると、貴方がYGやMagicoをはじめとする金属筐体のスピーカーをお持ち、ないしはそれらにご興味をお持ちであれば、Vanguardは良い選択肢たり得ると思われます。KRELLは、LATシリーズという独自の金属筐体スピーカーを開発していたため、金属筐体のスピーカーをドライブするためのノウハウは、一般的なアンプ屋さんと比べると豊富だと言えます。それがゆえでしょうか、Aシリーズが登場してしばらく経ったのちに、当方が某店の担当の方に「皆さま、どんなアンプをAシリーズと組み合わせおられるのですか?」とお伺いしたところ「KRELLが多いですよ」というお返事が返ってきました。これは感覚的に分かる気がします。
レビューにあたり、同価格帯のプリメインアンプ幾つかと聴き比べました。
しかし、当方がとりわけ重視しているのは marantz MODEL M1 および Spectralのセパレート(with MIT cables) との聴き比べです。
当方の中では:
・MODEL M1は、定価ベースで桁2つ違うスピーカーすら駆動し得るが、その他のこと、たとえば空間に広がりをもたせたり、音像に生気をもたせたりすることはとことんサボるアンプ。アンプ選びにおけるエントリーモデル。
・Spectralのセパレート(with MIT cables)は、駆動力はもちろん、音像の生気/熱気、音のスピード/リズム、そこに空間の広さと密度スケールが加わることによる出音のスケール感などなど、当方が重視する要素を全て満たし(現環境でMagico Q5を駆動する限りは)アンプ選びのひとつの終着点。
です。したがって両者との聴き比べは Krell Vanguard の強み/弱みを浮き彫りにすると認識しています。
以前に書いた両者の比較記事へのリンクはこちら。
生気と生命感が満ち溢れて熱い音、という強固なアイデンティティの1つを除いて、ほぼ全ての方向性が異なると言っても差し支えのない両者。とりわけ
サウンドステージについての考え方
スピード&リズム
の2点についてはスタンスが大きく異なります。前者については、Spectralは(MITの力も相まって)広大な音場を縦横無尽に、かつ、リズミカルに躍動する音像で魅せるスタンスで、KRELLはステージ最前列でパフォーマンスを拝むかのような迫力で魅せるスタンスです。後者については、Spectralは瞬発力に富み、スピーカーを問わず音を極めて速く立ち上げor立ち下げますが、KRELLはそういったことはせず、愚直にスピーカーにパワーを叩き込み続けます。ところで、SpectralもKRELLも、自社でスピーカーを開発しています(orしていました)が、SpectralのスピーカーはAvalonベースで、対するKRELLのスピーカー(LATシリーズ)はガチガチの金属筐体が特徴です。これはスピーカーのキャラクターからの憶測ですが、両社がアンプに期待する役割や守備範囲は違っていて、
Spectralの場合、引き締めるべきところはアンプが引き締め、スピーカーには芸術的な箱鳴りを期待する。(→Avalonが長年にわたりリファレンスで、自社製SPのベースモデルでもある。)
KRELLの場合、アンプはスピーカーにエネルギーを叩き込むことに集中し、引き締めるべきところはスピーカーが引き締める。(→ゆえにYGやMagicoをはじめ金属筐体のスピーカーと相性が良い。)
と愚考した次第です。
Vanguardの出音や挙動は、KRELLのブランドイメージと比べると、やや控え目です。KRELLのアンプというと、A級で、バカでかい筐体にバカでかいフィンがくっついており、それらがアツアツになるくらいまで熱を出し、出音は蕩けるような熱と色気を帯びる、というイメージですが、Vanguardの場合、そこまで強烈ではありません。よく言えばスマート、悪く言えば中途半端です。
ひとつ意外だったのが(あくまで拙宅の環境では)音量を絞っても中〜低音が痩せず、音楽がつまらなくならなかったことです。当方も何回か小音量再生をすることで、気付かされました。ヴォーカルの実体感やリアリティを犠牲にしない音作りであるのと、なんだかんだ言っても電源が強いからでしょうか。ヴォーカル主体でリビング音楽を楽しまれている方や、ながら聴きをしながら作業をされたい方にとっても、思わぬ良作と言える気がします。付け加えるなら、100万円ほどのプリメインアンプで、小音量時の陰と陽をこうも描き出す製品は珍しい、というのが率直な感想です。ちなみに、高音が怜悧かというと?ですが、それはそもそもの音作りによるところで、音量云々とは無関係です。好みが分かれるところではあるでしょうが、当方としてはケーブル1本で補正できるので問題だとは思いません。
はじめてKRELLのアンプを買う人。
アツい音が好きな方。
そこそこに駆動力が必要なスピーカーをお持ちで、かつ、ご自身とKRELLサウンドとの相性を見極めたい方。
金属筐体のスピーカーをお持ちの方。
後継機のK-300iが、税込で240万円近くまで値上がりしてしまっているため、現代Krellが好き、かつ、省スペースで楽しみたい方にとって、良い1台だと思います。
金属筐体のスピーカー(YG, Magico, Krell, etc)のうち、比較的コンパクトなものと相性が良い印象を抱いています。叩き込んだ力を受け止めてくれるような箱のスピーカーだと、ホットかつ俊敏な出音になるためです。
少し補足をしますと、Krell VanguardとSoulnote A-2はどちらもアツい音のアンプながらも、キャラクターが異なるように思われます。私なりに喩えるなら、Soulnoteは太陽フレア、Krellはマグマでしょうか。吹き付けるような鮮烈さや明るさが特徴的なSoulnoteと、スピーカーをグリップして離さないような粘り気と厚みとKrellという感想です。
お値段をx軸とした片対数グラフを描きたかっただけです。ジョークグッズの類なので、不確かですがご容赦を。