プリメインアンプ以外の機器類の情報はこちら。
ファーストコンタクトで虜になるような刺激的な音ではなく、日々の丁寧な仕事の積み重ねによって手放せなくなるタイプの音。
多くの方にとって、INT-25とのファーストコンタクトは、拍子抜けなものになると思われます。その出音は、至ってオーソドックスで、よく言えば縁の下の力持ち、悪く言えば面白みに欠けます。もう少し言えば、FM AcousticsやCH Precisionのアンプにあるような、一聴して「これは凄まじいセンスだ」と感じるような音色や、SpectralのモノラルやSoulutionの7シリーズにあるような、どんなスピーカーでもぶん回すだろうと思わせるようなエネルギーは、INT-25もといPASSのアンプからは感じません(なお、例外があるとすれば、数百ワットもあるような超大型アンプで、YGやMagicoの大型スピーカーを大音量で鳴らすケース)。しかしおそらく、十分に静粛な環境で、リラックスしてINT-25で音楽を聴けば、その刺激の小ささからは想像しがたい精緻な微弱音や、意外なほどスピーディに立ち下がる低音に驚かされると思われます。少なくとも当方はそうでした。
PASSのアンプなので、出音の線は細くないです。むしろ、中〜低音の厚みは豊かです。音像はやや軟質で、前述の通り、刺激が小さい音です。が、とにかく微弱音が埋もれません。耳に突き刺すような出音でアピールするとかではなく、S/Nの良さをバックボーンとし、細部まで丁寧かつ克明に描くスタイルです。これはPASSのセパレート(X600.5とXP-20)でも感じたことですが、聴感上のS/Nがとかく良いです。基礎力が高いがゆえに小細工せずにドンと構えている、とも言える気がします。
意外に思われそうですが、拙宅では出音とくに低音の立ち下がりの速さが印象的です。鈍重にみせかけて意外と俊敏、というフレーズが思い浮かびました。立ち上がりと比して立ち下がりが速い低音という観点では、HEGEL H360に通じるものがあります。尤も、H360の低音の立ち上がりは鈍重という感じではなく「普通」ですが。話を戻すと、INT-25は柔らかく立ち上げ、柔らかく立ち下げます。その甲斐あってか、高難易度の曲を鳴らしても危なげなく鳴らします。たとえば "Galactic Symphony" という曲は、高音域から低音域まで色々な要素が入っていて、ちゃんと鳴らす難易度は高めの曲だと思っていますが、INT-25でドライブするMagico Q5は、この曲を魅力を、危なげなく引き出します。
レビューにあたり、同価格帯のプリメインアンプ幾つかと聴き比べました。
しかし、当方がとりわけ重視しているのは marantz MODEL M1 および Spectralのセパレート(with MIT cables) との聴き比べです。
当方の中では:
・MODEL M1は、定価ベースで桁2つ違うスピーカーすら駆動し得るが、その他のこと、たとえば空間に広がりをもたせたり、音像に生気をもたせたりすることはとことんサボるアンプ。アンプ選びにおけるエントリーモデル。
・Spectralのセパレート(with MIT cables)は、駆動力はもちろん、音像の生気/熱気、音のスピード/リズム、そこに空間の広さと密度スケールが加わることによる出音のスケール感などなど、当方が重視する要素を全て満たし(現環境でMagico Q5を駆動する限りは)アンプ選びのひとつの終着点。
です。したがって両者との聴き比べは PASS INT-25 の強み/弱みを浮き彫りにすると認識しています。
以前に書いた両者の比較記事へのリンクはこちら。
生気と生命感が満ち溢れて熱い音、という強固なアイデンティティの1つを除いて、ほぼ全ての方向性が異なると言っても差し支えのない両者。とりわけ
どちらも暖色系の出音ですが、Spectralの方が温度感が高めです。MITを噛ませたSpectralのセパレートは、YBAや(比肩するのは難しいものの)FM Acousticsのアンプを彷彿させる生気や生命感と、Soulutionの7シリーズを彷彿させる躍動感を両立します。それと比べると、PASS INT-25の暖色はやや控えめな「ほんのり」です。
微弱音の精緻な表現については、良い勝負です。この点については、INT-25は同価格帯でも傑出していると感じます。MITケーブルまで含めればトータルコストで桁1つ上をゆくSpectralと張り合うというのは、ありそうでなかなか無いです。
低音域は、質的にSpectralが圧倒します。上で、INT-25の音の立ち下がりを褒めましたが、さすがにレベルが違います。もっとも、この観点でSpectralのセパレートと張り合えるプリメインは、今回のラインナップには含まれませんが(^^;
音場の広さはSpectralが圧倒的ですが、音像の描写についてはINT-25の丁寧さはSpectralに迫るものがあります。INT-25で音楽を聴いていると、スモールスケールでも確実に良い仕事をすることの尊さを感じます。
多くの方にとっては既知の内容かとは存じますが、INT-25は、オーディオショウの広い部屋で Magico の大型機をぶん回しているようないわゆる「巨大なPASSアンプ」とは若干、趣を異にします。これは、巨大PASSとは若干ルーツが異なるためです(元を辿ればネルソン・パスではありますが)。全容はエレクトリの公式ページに詳しいので、ここではサマリのみ。
本題ですが、INT-25はPASSのアンプの中でもFirst Watt寄りのアンプです。PASSはINT-60というプリメインアンプも製造しており、価格・サイズ共に若干そちらが上ですが、INT-25とINT-60の間に分かりやすい上限関係はないです。具体的には、INT-60が「.8シリーズ」を設計思想を踏まえたA/B級のプリメインアンプで、出力段と電源部はXA60.8のそれと同様であるのに対し、INT-25は、プリアンプ部こそINT-60のものをベースに設計されているものの、パワーアンプ部はXA-25のそれであり、First Wattの流れを汲んだシンプルなシングルエンド回路構成を特徴としています。これは「1ワットでうんざりするような音が聞こえたら、500ワットのアンプの音を誰が聞きたいと思いますか?」という問いに対するネルソン・パスの回答(First Wattの設立)を踏まえたものです。
主観ですが感覚的には、First Watt寄りのPASSは、巨大PASSと比べ、音作りが丁寧です。ただし、絶対的な出力が小さいため、たとえばTIASでいつもエレクトリが使っているような巨大な部屋で低能率のスピーカーをぶん回す、といった使い方には向きません。とは言っても25W+25W(8Ω)ないし50W+50W(4Ω)はありますので、スピーカー側が極端に低能率でなければ、大抵の個人宅で問題になるような出力ではない筈です(もちろん、たとえばSpectralのセパレートの音をINT-25で再現することは困難ですが、それは出力とは無関係です)。が、確実にミスマッチを防ぐ意味合いでも、どれくらい音量が取れるかは計算されるのが無難かとは存じます。簡易ツールですがこんなものもあります。
描写の激しさより丁寧さをお求めになる方。
First Wattのセパレートアンプをご検討の方。
打てば響くような高能率の大型スピーカーをお使いの方。
付属の電源ケーブルが Nordost の Blue Heaven です。
お値段をx軸とした片対数グラフを描きたかっただけです。ジョークグッズの類なので、不確かですがご容赦を。