所有機はOracleシリーズが中心です。Spectralのアンプとのマッチングを念頭に置いています。
MITは、ケーブルの音質について、独自の理論を構築しているメーカーです。詳細は後述。
ユーザー的には、理屈はどうあれ音が良い点は天晴です。
MITのケーブルに共通する音の所感を端的に:
性能向上系のケーブル。音の立ち上がり&立ち下がりをビシッと決めます。まるでアンプの駆動力がアップしたかのようなウーファーの制動は圧巻です。アンプに喩えると、SoulutionやHEGELのアンプの上位ラインとよく似た音です。
筆者の所有したラインナップだと、出音は総じて躍動的です。とりわけ低音について言えて、ビシッと制動する技術を有するがゆえに、出すところはグイッと出してくる印象です。なお、上位機種になるほど、低音の低い音域が明瞭になる点は、他社とも共通です。
ヴォーカルやアコースティックの生気・熱気・生命感に目を見張ります。サウンドステージの密度が上がったかのような聴かせ方をするケーブル。単体で十二分に広い空間を担保できるSpectralのアンプとは非常に相性が良いです。
それぞれのケーブルについての、より具体的な感想(個別レビュー)はこちらからどうぞ。
MIT Cablesは、独自の技術をもって、既存のケーブルのネガを潰しにゆく理論派のメーカーであると同時に、最終的な出音をユーザーの好みに合わせて調節できる仕組みをケーブルに仕込む、という柔軟性をもつメーカーでもあります。
たとえばOracle MA-Xケーブルであれば、ケーブルの「効能」を5段階で調節できます。詳細はこちらのページの"A.A.R.M.™ - The Adjustable Articulation Response Module"をご覧いただきたいですが(個人的な)聴感上の感想を端的に言えば、効能を強めるほど、ウーファーの制動がアクティブかつ精緻になり、音像の迫力は増します。逆にTransparentやStealthが得意とするような、広大なサウンドステージ上に「冷静に」音像を描画する、という趣は薄れなります。
この効能の良し悪しの判断はユーザーに任せる、というのがMITのスタンスです。
"It is purely subjective when deciding where the selector switch should be set—experiment a bit and set the selector switch where you feel your system performance is best, and enjoy the music!"
(和訳)セレクタースイッチの位置決めは、完全に主観的な判断になります。試行錯誤して、システムのパフォーマンスが最も良いと感じる位置にセレクタースイッチを設定し、音楽を楽しんでください!
余談ですが、上位機種になればなるほど、出音の柔軟性に富みます。これは、物理的にセレクタースイッチで出音をコントロールできる、という意味です。たとえば上述のOraxle MA-Xであれば、出音のバリエーションは5パターンですが、これがOracle MA-X SHDであれば、Mid/High側のアーティキュレーションとLow側のアーティキュレーションを調整することで、計10パターンの出音を紡ぎ出します。
なお、Oracle MA-X SHDに関していえば、どのパターンでも出音の質が良い点は恐ろしいです。逆に、下位ラインのOracle MAや2C3Dシリーズなどには、セレクタースイッチそのものが付随しないため、A.A.R.M.™には非対応です。
MITには、ラインケーブルの音質に関する独自の課題感と理論があり、ゆえにMITの技術はそれらの課題を克服するために用いられているようです。以下、MITの公式資料(Multipole Technology, etc)を参考に、彼らの考え方をまとめたものです。少々、専門的な用語が出てきますが、ご容赦ください。
MIT曰く「すべてのオーディオケーブルには、エネルギーを最も効率的に蓄え、伝送する周波数が存在します。この特定の周波数をアーティキュレーション・ポールと呼びます。この周波数が高ければ、明るくシャープな音、低ければ、温かく、ややこもった音に感じられる傾向があります。多くの一般的なケーブルは、基本的な周波数帯域はカバーしていても、特定の狭い帯域(=1つのポール)でしか音が明瞭に伝わらず、その他の帯域が不明瞭になりがちです。」
つまり、全てのラインケーブル(導体)には、得意とする周波数帯域(アーティキュレーション・ポール)があり、逆にそれ以外の周波数帯域はうまく再生できない、というのがMITの主張です。これに則り、導体の弱点を電子回路の仕組みによって克服しようとするのがMITのアプローチであると見受けられます。
以下の図の例ですと、ケーブル1は低域側の再生を得意とする「温かく、ややこもった音」のケーブルで、ケーブル2は高域側の再生を得意とする「明るくシャープな音」のケーブルです。
それぞれに、強みはあれど弱みもあることが見て取れます。ついでに言えば、帯域バランスが崩れることでダンピング(音の減衰)にも悪影響がある、というのがMITの考え方のようで、つまり時間軸の観点でも既存のケーブルには問題はあるとのことです。(この辺りはCSDグラフなどを載せてくれると理解しやすかったですが。)
まとめますと、MITのラインケーブル作りにおける指標は
アーティキュレーション・レスポンス(周波数全体でのエネルギー伝達の精度)
ダンピングファクター
などであると言えそうです。
少し整理してみましょう。
アーティキュレーション(Articulation):オーディオケーブルやネットワークがエネルギー(主に電気エネルギー)を効率よく蓄え、伝送する能力。
アーティキュレーション・ポール(Articulation Pole):あるケーブルがエネルギーを最も効率的に蓄積・伝送し、最も正確な音を出す周波数帯域のこと。ケーブルによって異なるが、1500kHz付近が一般的とされる。
アーティキュレーション・レスポンス(Articulation Response):周波数全体でのエネルギー伝達の精度。単一のアーティキュレーション・ポールを有するケーブルでは、良好なレスポンスが得られる周波数帯域は限られるが、MITでは、可聴範囲(20Hz〜20kHz)全体にわたるフラットなアーティキュレーション・レスポンスを目指している。
マルチポール技術(Multipole Technology):単一のケーブルに複数のアーティキュレーション・ポールを持たせるための技術。MITでは、可聴範囲(20Hz〜20kHz)全体にわたるアーティキュレーション・ポールの構築を目指している。パッシブネットワーク(コンデンサやコイル) によって実現され、より広い周波数帯で均一なアーティキュレーション・レスポンスを実現する。詳細は後述。
MIT的に、上述の問題をどのように解決するかというと、1ケーブルにつき1アーティキュレーション・ポールという原則を(彼らのマルチポール技術によって)打破し、可聴範囲(20Hz〜20kHz)全体にわたって上手くレスポンスするマルチポールのインターフェース(≒ケーブル)を実装する、というものです。以下の図は1ケーブルが6アーティキュレーション・ポールを持つと仮定したケースで、単一のアーティキュレーション・ポールを持つケーブルよりも帯域バランスがフラットであると言えます。
少し冗長ですが「課題感」で挙げた2つのケーブルとの比較を図にすると、このようになります。MIT曰く
"MIT’s interface provides a linear articulation response, resulting in a more controlled bass, and smoother, more extended highs along with a lower noise floor –like multiple cables in one!"
(和訳)MITのインターフェースは直線的なアーティキュレーション応答を提供し、より制御された低域、滑らかで伸びやかな高域、そして低いノイズフロアを実現します——「まるで複数のケーブルを一本にまとめたような性能です!」
余談ですが、現行ライン(インターコネクト)のpole数は下記の通りになっています。
Oracle MA-X SHD:110 poles
ORACLE MA-X Rev.3:100 poles
ORACLE MA Rev.1:95 poles
上位ラインであればあるほど、アーティキュレーション・ポールが密かつ/またはワイドレンジに及んでいることが見て取れます。
電源関連の機器(含ケーブル)の場合もMIT独自の課題感と理論がありますが、ラインケーブルと比べるとシンプルなようです。以下、MITの公式資料(Z Filterpole Technology, etc)を参考に、彼らの考え方をまとめたものです。
なんといっても先ず、ノイズに対する課題感が強いようです。下記の図は、MITが、既存の製品に存在する高調波ノイズの強度(大きいほどノイズが強い)について指摘したもので、それがMITにとって課題であったことを示すものでもあります。なお、Z PowerbarというのはMITの電源コンディショナーのことで、つまり製品名です。高調波ノイズに積極的に対策する"Filterpole"を搭載していることから、Before/Afterの比較に用いられたようです。
次いで、力率についても課題感があるようです。なお力率とは、電源から供給された電力のうち実際に有効な仕事をする電力の割合で、1に近づけることが理想とされます。力率と音質の関連については、MITの公式ページでは明文化されていませんが、電力の安定供給により、間接的な音質改善が期待できるという見方は成り立つ(気がします)。極めて直感的な物言いですが、無意味な電力のロスが、アンプの駆動力に良い影響をもたらすとは到底思えませんし。まとめますと、MITの電源ケーブル作りにおける指標は
ノイズ(S/N比)
力率
などであると言えそうです。
公式の記事によると
"A properly built AC filter will not only attenuate unwanted noise on the AC power line, but it will also optimize the power factor."
(和訳)適切に構築された ACフィルターは、AC電源ライン上の不要なノイズを減衰させるだけでなく、力率も最適化します。
なのでつまり、フィルタを用いたノイズ対策を行なった結果、力率の改善という別の恩恵もあった、という風に読めないこともないです。が、別途、パワーサプライ側に力率改善回路を組み込んでいるという記述もあり、筆者的にはこちらの方が納得感はあります。ただ、実際のところは、バラしてみないと分からないでしょう。
本題ですが、ノイズ対策に用いられている主要な技術はParallel AC Filterpoles™と呼ばれるものです。これはMIT設計の、並列チューニングされたLCR回路のことで、特定のノイジーな周波数で非常に低いインピーダンスを作り出し、ノイズ成分を吸収して、熱エネルギーに変換して地面へ逃がすものです。「並列」であることが肝で、ノイズを反射するのではなく、吸収・無害化する点が特徴で、巷でよく見られる直列のLCR回路では得られない効能なのだそうです。これについては、公式ページにある喩えが分かりやすいので、引用してみます。
"Imagine a series filter working by ‘shutting a door’ in the face of noisy pollutants. What happens to the noise after the door is closed? Since noise is energy, it cannot be destroyed; it must be consumed to be removed. So, when a series filter blocks or rejects unwanted noise, it simply reflects the noise right back to the source. The noise has not been removed, only reflected. This type of filter cannot rid itself of noise, as the noise is continually reflected between the series filter and the source, again and again. This is yet another source of audible noise, inserted by the very device called upon to eliminate it!"
(和訳)直列フィルタが、ノイズによる汚染に対して「ドアを閉める」ようにアプローチすることを想像してみてください。ドアを閉めた後、ノイズはどうなるでしょうか?ノイズはエネルギーであるため、破壊することはできず、除去するには消費する必要があります。つまり、直列フィルタが不要なノイズを遮断または除去すると、ノイズは発生源に直接反射されます。ノイズは除去されたわけではなく、反射されただけです。このタイプのフィルタは、ノイズが直列フィルタと発生源の間で何度も反射し続けるため、それ自体でノイズを取り除くことはできません。これは、ノイズを除去するために呼び出された装置によって作り出された、もう一つの可聴ノイズ源なのです。
なお、力率改善については、具体的にどのような仕組みで行なっているのか読み解けなかったため、今回は割愛します。
MITの電源ケーブルのローノイズをもたらす仕組みについては、公式の記事を読むことである程度、理解が得られました。一方で、特にORACLEシリーズの電源ケーブルに共通する「音の躍動感」については、記事を読むだけではピンときませんでした。Z Filterpole Technology関連の記事だけでは、網羅的な解説になっていないかもしれないので、引き続き、関連する記事を読む努力をしたいと思います。