Oracle Z-Cord AC1ケーブル(以下、Oracle AC1)は、アメリカのMIT Cablesが製造していた電源ケーブル。MITの電源ケーブルというと、このOracle AC1と兄貴分のOracle AC2、そして弟分のOracle AC3(Z CORD III)が有名であるように思える。また、かつてDominus(PAD)、Valhalla(Nordost)、Dream(STEALTH)あたりと覇を争い、一時代を築いたケーブルだとも言えるだろう。
紐がついた箱。紐に何かがくっ付いているケーブルは多いが、これほど箱らしい箱が付いているものは珍しく、MITの個性と言える。箱はかなりガッチリとしていて、衝撃等から内部の回路を保護している。箱が黒いモデルと箱がシルバーのモデルがあり、筆者の所有物は前者。他にも、同名のさらに古いモデルは、箱が小さかったりする。かなりのロングセラーなので、箱以外の細部や出音は変わっているのではないかと推察するが、検証はしていない。
線体の取り回しは、見た目ほどは苦労しない。他のMITの箱付きモデルと同様に、箱がオス側のプラグから1m弱の位置にあり、たとえば2mの個体であれば高さ1m程度にある機材に接続できるだけのキャパがあるし、3mの個体なら高さ2m程度までいける。とはいえ、箱を地に這わせずに高所にある機材に接続する等の場合、ケーブルが箱の重みで抜けてしまうリスクはあるため、業務用スタジオ等で運用する場合は注意が必要となるだろう。
S/N等の基本性能とはまたの、MITのお家芸。筆者は、さまざまなケーブルを所有し、比較してきたが、その中でもOracle AC1のウーファーをブンブン言わせる感じは、かなり強力な効能がある。これはOracle AC1の個性で、当時のハイエンドたとえば、Dominus(PAD)やValhalla(Nordost)と渡り合う際の強力な武器だったものである。
表現はかなり顕示的で、たとえば現在のフラッグシップであるOracle FPが、全場面というよりは要所で強烈な凄みを発揮するタイプの出音なのに対し、Oracle AC1は、どのような場面でも出音をOracle AC1らしさで染め上げようとするきらいがある。これは、Oracle AC1が登場した当時の「ハイエンドケーブルは性能個性で勝負してなんぼ」という風潮を反映したものと勘繰れないこともない。なお、筆者個人としては、NordostがOdinをリリースしたあたりから、ハイエンドケーブルに求められる役割が変わってきたような気がしていて、それは「個性を前面に出すのではなく、性能によってシステムを底上げする」というものだと見受ける。そういう意味でも、このOracle AC1の音は、万人受けするものであるというより、好き嫌いがはっきりと分かれるものだと思われる。
このOracle AC1の時代のMITのケーブルの出音からは、いくらかの熱気とざらつきを伴う、ある種の雑味を感じる。これは、現行のフラッグシップであるOracle FPやOracle MA-X SHD(インコネ)からは感じないもので、やはり古のMITの個性と呼ぶべきものだと感じる。この雑味が吉と出るか、凶と出るかは、音源次第だと思われる。筆者が愛用している音源だと、たとえばビッグバンドジャズやロックのLIVE音源では吉と出がち。次いで、クラシックや女性ヴォーカルは豪奢になりがちで、これは賛否両論あると思うが、好きな人もいるだろう。あと、アニソンでfripSideの"sister's noise"という曲があり、これは爽快感や疾走感を前面に出したい音源なので、Oracle AC1との相性はあまり良くなかった。とはいえ、強力な効能がゆえにハマると威力抜群なのは確かなので、サブ機として所有するか、メインとしての導入を検討する場合は事前に試聴するなどして相性を確かめるのがよいと感じる。
個人的には、プリアンプに使うのが、最も恩恵が大きいように感じる。パワーアンプ使用でも問題はないが、兄貴分のOracle AC2が大電流特化で開発されているので、パワーに使うならそちらを引っ張った方が恩恵は大きいように思われる。デジタル段に使うのも可だが、プリの方がキャラクターが音に反映されやすい印象を持っている。
Valhalla(Nordost)
Dream(STEALTH)
TELSA Hologram(Synergistic Research)
Dominus(Purist Audio Design, PAD)
PLMM2X(Transparent)